2015年11月07日

おいしい牛肉(1)

 美味しい猪鍋の条件を知っていますか?

 山猟師の人達は、猪が一番美味しいのは、脂の乗った秋から冬の若い個体だといいます。野山を走り回って健康に育った体に、冬を越すために脂が充分に蓄えられた時が、最高に美味しいのだというのです。
 私どもは、牛肉も同じだと考えています。牛肉のうま味は細胞の中の細胞液の味です。それは適切な飼料(牛は草食動物ですから充分な牧草を含みます)と適度な運動の中から生まれます。

 牛肉の値段は、見た目のよさ、つまり、サシ、霜降りと云って、脂肪がきめ細かに肉の間に多く入っているものほど、高級ということになっています。

 本当に、サシが多く入っている肉ほど、おいしいのでしょうか?
 もちろん脂肪は肉の食感に大きな役割を果たしています。脂肪が小さく、より多く肉の中に入る事で柔らかな食感になります。また、料理で加熱調理をするときに、肉のうまみの命である細胞液(肉汁)の流出をくい止める役割をするのです。このように、ある程度の脂肪は、加熱したときの肉のおいしさに重要な役目をしています。
 しかし、肉のうまみの命である肉汁そのものおいしさは、見た目ではわからないのです。適切なえさをたべて十分運動して健康に育ったのかどうか、肉をみただけではわかりません。店頭に並んでいる肉を見てわかることは、わずかに和牛とか国産牛とかオージービーフとか、牛の品種と産地だけです。

 戦前をご存知の方は、昔の牛肉は少し固いけれど、素晴らしい味の美味しさだった事を覚えていらっしゃるでしょう。あえて偏見と独断でいうならば、戦前の牛肉は大部分は黒牛だったのです。黒牛は、今のように、肉用牛という形ではなく、役牛と言ってトラクターの代わりに田畑を耕していました。田圃や畑は深く耕すほど収穫が多くなります。ですから、仕事をする役牛は力が強い、馬力のある牛が大事にされました。それは筋肉がしっかりしている牛のことですね。発達した筋肉、濃い細胞液、すなわち濃厚な旨みの牛肉の味というパターンになったのです。ただし、何年も働いた牛の肉ですから、固くて噛みきれなくて、最後は飲み込む、そんな事を覚えています。 しかし、すき焼きなどで一緒に煮込んだ豆腐や野菜などの食材に染み込んだ牛肉の味は格別でした。だからこそ、日本の代表的な料理として世界に紹介されたのです。

 ところが現在は役牛は肉牛に変わり、少ない飼料でより早く大きく育てるために、最小限の牧草と穀物を主体とした配合飼料と、狭い畜舎の中で運動をさせないようにして飼うようになりました。その方が効率がいいからです。何しろ経済性、効率、合理性の世の中ですから。その結果、お肉は柔らかくなりました。食感も良くなりました。しかしあの濃すぎるほどの黒牛の味は失われて、ただの美味しい牛肉に変ってしまいました。

 私ども見浦牧場は、この昔の黒牛の味を追いかけて、日本で唯一の独特の飼い方を追求しているのです。このページをお読みの皆さんに、本来の黒牛(わぎゅう)と見浦牧場の牛の話、そして働いている人間の考え方を、聞いて頂きたい、見て頂きたいと思っているのです。

つづく

2002/4/29 見浦 哲弥

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2002年07月29日

おいしい牛肉(2)

 世界中には、いろいろな種類の牛がいます。有名なアンガスやヘレホードなど、国内でも黒牛の和牛を始めとして、肥後の赤牛、山口の無角、それに乳も肉もと改良された日本ホルスタイン・・・・・無数にあります。しかし、その中で和牛肉はトップの味を誇っているのです。

牛肉の自由化が外交の日程に登り初めた頃、和牛の種雄牛や精液の国外流出を禁止していた規制の網をくぐって、アメリカに2頭の雄牛が流れでました。続いてオーストラリアへ。牛肉の輸出を考えていた両国にとって、和牛の血統を導入することは、牛肉の味を良くするために、必要不可欠の条件だったのです。
言い替えれば、世界最高の味の牛肉は和牛だと、私どもは思っています。

でも、その最高の牛の味も、飼い方次第で色々と変わります。その話をしましょう。
まず、見浦牧場の飼育方法を説明しましょう。

子牛は生まれて10日目頃から、分娩房(産室)から抜け出して冒険旅行に出ます。見浦牧場には、分娩房が7つある牛舎と4つある牛舎と2つの分娩用の牛舎があります。そのため、常時、ほぼ同じ頃に生まれた子牛が何頭かいますから、遊び友達に不自由はしません。好奇心旺盛な子牛たちは、牛舎の周囲を探検したり、イタズラしたり、友達の牛房に遊びに行ったり、おなかが減ったとき以外は母親の所へ帰ってこない、なんて、不届きな奴までいます。
見浦牧場では大きくなると、集団で群れを作らせて飼育するので、それにあわせて小さい時から自由にさせるのです。

しかし、問題もあります。1頭でも病気になると、時間を置かないで皆同じ病気を患います。
皆さんも良くご存知のように、病菌も学習します。多頭飼育になればなるほど、病菌が学習してタフになり、病気が直りにくくなるのです。ですから、一般的にはカーフハッチなどといって、親から離して、一頭ずつ別飼にするなどの方法とりますが、見浦牧場では病気に強い強健性を、血統選抜の基準の一つにすることで対応しています。また、いかに早く病気をみつけて先手をうつか、病菌が薬に対して抵抗力をつけにくくするために、いかに投薬を最小に押さえるかという点に努力しています。

ですから、子牛は小さいときから集団を組んで、元気いっぱい遊び回っています。これによって、体は健康で丈夫になり、肉のうまみの元である筋肉が十分に発達します。

「命の通っている健康な食品を消費者に届ける」、これも見浦牧場のこだわりです。
でも、文章で書くと1行ですが、実際は大変です。なにしろ牛語は人間には通じません。学校や専門書をどんなによく学んでも、症状が出るまでは判らないのです。それでは解決になりません。ですから、常日頃牛とふれあい、観察し、失敗しながら積み上げて、やっと、わずかな異変も見逃さずに、適切な治療が行えるようになるのです。
体で覚える、これには時間の積み上げが必要なのです。

美味しい牛肉を消費者の皆さんにお届けするためには、大変な農民の努力が費やされている事を、消費者の方にも、畜産関係者の方にも、流通業者の方にも、是非理解していただきたいと思います。

見浦 哲弥


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